●チェンジリング Changeling
●監督;クリント・イーストウッド
●脚本;J・マイケル・ストラジンスキー
●音楽;クリント・イーストウッド/ ミナミ・カトウ
●出演;アンジェリーナ・ジョリー/ ジョン・マルコヴィッチ
●DATA;アメリカ合衆国 2008年5月20日公開 142分
春間近、今日は冷たい雨が降っている。この雨は夜半には雪に変わるそうだ。夜明けを前にした空は一層暗く、春の直前は深々と寒い。これは暗さの底から光を求め、不撓不屈、権力と闘う女性の物語。深夜WOWOWにて視聴。実際の事件を元に映画化されたそうだ。真実の重さに圧倒される。簡単なあらすじと感想など。
●あらすじ
1928年、ロサンゼルス郊外。クリスティンは、電話交換手として働くシングル・マザー。9歳の息子のウォルターと二人、平穏に暮らしていた。クリスティンの勤務中、留守番をしていたウォルターが消える。警察に届けるが、誘拐か?、家出?か判らないまま時間が過ぎ、クリスティンは苦悩の日々を過ごす。辛い日々の心の支えは、長老会教会のグスタヴ・ブリーグ牧師だった。
失踪から5か月後、警察から「息子が発見された」と連絡があり、クリスティンは喜び駅に向かった。そこにいたのは息子に似た少年…だった。自信満々のジョーンズ警部の談話に、クリスティンはその少年は家に連れ帰ってしまう。少年は記憶喪失だと言い、家の様子も不案内。翌日、「少年は別人」と申し立てるクリスティン。だが、警察は「事件のショックで別人のように見えるのだ。帰還兵にはよくあることだ」と取り合わない。挙句の果てに「母親失格の冷たい女だ」と、クリスティンを罵倒する始末…。
連れてこられた少年は、ウォルターにはない割礼がほどこされ、身長は9cm低い。前歯の形も違う。歯型は歯科医が確認、小学校の担任教師も「まったくの別人」と法廷証言を約束してくれた。クリスティンの活動は、ジョーンズ警部の知るところになる。警察に間違いがあってはならない。告発直前に警部に呼び出されたクリスティンは、ロス市立の精神病院に極秘入院させられてしまう。事件の相談にのっていた長老会牧師は、告発直前に失踪したクリスティンに不安を感じていた。協力者とともに安否確認に警察に行くが…。
精神病院には“コード12”と呼ばれる患者が多数いた。病院の食堂、元売春婦だった女性がクリスティンに話かけてくる。彼女も“コード12”、警官に暴行され、不法監禁されたのだ。反抗的な態度では事態が悪化する。ここの対処法を教えてもらい、にこやかに対応するクリスティン。だが、医師が差し出した退院の条件は、警察捜査同意書だった。サインを拒んだクリスティン。医師は、看護婦に電気ショック処置を命じる。電気コードを頭に装着され…。>>>つづきはDVDでどうぞ!!。
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1928年といえば昭和3年だ。
80年前のアメリカは文化的!!。電化製品を除けば、日本の昭和40年ぐらいに思える。街は平和で、穏やか、瀟洒なインテリアの家、仕立ての良いスーツに上品なドレス…。だが、物語が進むにつれ、大きな権力に隠された悪魔的な行為と、本当に悪魔のような所業が明らかになる。
前述したように、本作『チェンジリング』は、1920年代、実際にロサンゼルスで起きたゴードン・ノースコット事件【ゴードン・ノースコット事件(Gordon Northcott);アメリカ合衆国で1920年代後半に発生した連続少年誘拐殺人事。別名をワインヴィル(現在のミラ・ロマ)養鶏場連続殺人事件"Wineville Chicken Coop Murders"と呼ばれる。裁判で有罪になったのは3人の殺害であるが、本人の告白では、犠牲者は映画に登場するウォルター・コリンズなど20人としている。(ウィッキペディアから引用)】を元に作られた物語。
映画には描かれていないが、このシリアル・キラーには、実の母親と言う共犯者がいること。犠牲になった少年たちは性的虐待を受けていたこと、遺体は消石灰で処理し、砂漠に埋めたため殺害を法廷で立証できたのはたった3人であることなど記録されている。身の毛がよだつというのは、このような事件を言うのだ!!。
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題名の『Changeling』は、若い娘や美しい子供、特に金髪の子供がトロールや妖精の子と交換されると言うヨーロッパの古い伝承。日本ドラマによく登場する取替え子は、赤ちゃんの時に産院で交換される話が多い。生まれたばかりの赤ちゃんならいざ知らず、9歳の子供が別人に替わるのは相当に無理な話だ。だが、それが実話なのだから、いくら80年前でも????。「この子は別人です」と母親が言っているのに、「あなたの勘違いだ」と強弁される。自分の子もわからないのは精神異常だと人権無視の精神病院に監禁される!!!。本当に怖い…。
映画はゴードン・ノースコット事件の全容を明らかにするとともに、犠牲者でありながら、さらに過酷な経験をすることになったクリスティン・コリンズの異常体験を中心に進行する。とにかく、闘うお母さんは毅然としている。冷静・沈着!、時には冷たく見えることもある。精神病院での、彼女の強さ、理性は超人的だ。その強い母親役は、アンジェリーナ・ジョリー。彼女の意志の強い顎の線、強い光を宿した瞳は、役の個性を能弁に語っている。
ジョーンズ警部の保身と不正、精神病院の患者への虐待、裁判経過、犯人の死刑執行と、事件は時系列で丹念に描かれている。一番の不思議は、「自分はウォルターだ」と言い張った家出少年!?!?や、「僕は子供だから罪にならない」と叫ぶ共犯の少年。ここはもう少しシーンの追加があっても良かったかもしれない。
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アメリカ合衆国は広い…。
さまざまな理由で人が居なくなる。離婚の親権問題や破産、犯罪被害者などなど、未成年の失踪は多い。手がかりを求め、牛乳の紙パックに個人写真など印刷されているのを見たことがある。その失踪者の0・数%は、無差別連続殺人の犠牲になっているかもしれない。怖い統計だが、男性で100人に1人、女性で300人に1人が、サイコパス(反社会性人格障害)である可能性があるそうだ。
犯人のゴードン・ノースコットは快活な青年風に演じられる。身なりも整え、とても極悪な殺人鬼に見えない。彼は、20人以上殺している。それでも、地獄を怖れ、天国に行こうとしている。自己都合、被害者の痛みに共感できない心…。これがサイコパスの典型なのだろう…か。映画も怖いが、実際の事件の方が数倍も陰惨だ。
本作には程度の違いはあるにせよ何人ものサイコパスが登場する。人は怖い。国家権力を自分自身の力と勘違いした者。欲望を抑えることの出来ない者。嘘をつくことに罪悪感のない者…。身を守るすべは、良き隣人なのだろうか…。
本当の恐怖を映像から感じることは少ない。
だが、本作はリアルな恐怖が迫ってくる。
牧師役のジョン・マルコビッチの存在感は特筆!。
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