●ベンジャミン・バトン 数奇な人生●
●原題;The Curious Case of Benjamin Button
●監督;デヴィッド・フィンチャー
●脚本;エリック・ロス
●音楽;アレクサンドル・デプラ
●出演;ブラッド・ピット/ケイト・ブランシェット/ティルダ・スウィントン 他
●DATA;ワーナー・ブラザーズ 公開 2008年12月25日/2009年2月7日
167分 アメリカ合衆国 製作費 約160億円・興行収入 約335億円
●受賞;オースティン映画批評家協会賞:助演女優賞
ヒューストン映画批評家協会賞:助演女優賞、撮影賞
ナショナル・ボード・オブ・レビュー:監督賞、脚本賞
バンクーバー映画批評家協会賞:監督賞
ワシントンD.C映画批評家協会賞:美術賞
英国アカデミー賞:メイクアップ&ヘアー賞、美術賞、特殊視覚効果賞
全米美術監督組合賞:美術賞(時代映画部門)
DVDレンタルにて鑑賞。生まれたばかりの子猫のいる自宅と、老人ばかりの療養病棟。病気療養中の自分。私の日々は、老人と病気に囲まれている。ベンジャミンの育った老人ホームは、実感としてリアル…。
「年をとること」、つくづく「考えちゃう」な1本。
●あらすじ
ニューオリンズの小さな通り、腕の良い時計職人がいた。彼は駅舎に掲げる大きな時計を作っていた。時計を作る長い歳月の中、時計職人の息子は出征していく。見送った駅のプラット・ホーム。出迎えた時、一人息子は小さな棺に入っていた。それでも時計職人は時計を作り続ける。ついに時計は完成し、除幕式が開かれる。大統領、知事、大勢の賓客の見守る中、時計を覆っていた布が取り除かれた。美しい時計が現れ、皆の歓声が起こる。だが、その次の瞬間、歓声は悲鳴に変わる。時計の針が逆に動いていた。
時計職人は語る。「もし、時間が逆に進むのなら、死んだ息子は家に戻り、結婚をし、子供を育てただろう」。その日、時計職人の姿は町から消えた。
100年後、2006年、ニューオリンズ。窓の外、雷鳴が轟く。大型ハリケーンが近づいていた。老婦人が、死の床にいた。枕頭台には、古い日記があった。一人娘に「日記を読んでほしい」と老婦人は言う。革表紙の日記には、大量の絵葉書と数奇な運命と真正面に向き合ったベンジャミン・バトンの生涯が記されていた。
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1918年のニューオーリンズ。第一次世界大戦の終結にわく夜。ボタン工場の社長の妻は、出産の苦しみの中にいた。妻難産の末、妻は命を失う。生まれたばかりの息子の顔を見た若い夫バトン(ボタン)。彼は半狂乱となり、老人ホームの玄関に赤ちゃんを捨てる。その老人ホームで働く若い家政婦クイニーは、子供の産めない体だった。異様にしわくちゃな赤ちゃん!。だが、信仰心の篤いクイニーには、変わった赤ちゃんは神様からの贈り物としか思えなかった。赤ちゃんはベンジャミンと名付けられ、老人たちと一緒に、穏やかにに成長する。この老人ホームに集う老婦人や老紳士たちは、それぞれ教養・経験のある人たちばかりだった。ベンジャミンはピアノやボード・ゲーム、そして処世訓など、得がたい知識を吸収していく。
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1930年の感謝祭の日。ベンジャミンは、ホームに住む老婦人の孫娘デイジーと出会う。ディジーは、小さな老人のように見えるベンジャミンが、実は自分と同じ年頃の少年だと、瞬時に見抜く。二人は心を通わせるが、成長したベンジャミンはホーム以外の世界に飛び出そうと決心する。彼は小さな船の乗務員になり、デイジーに絵葉書を送り続ける。
ベンジャミンは、港町のホテルで裕福な人妻と恋に落ちる。彼女はドーバー海峡を横断水泳の挑戦者だった。だが、たった8キロ手前で、力尽きた過去を悔いていた。夜中のキッチン、ラウンジ、二人は多くを語り、愛し合うようになるが別れの日がくる。その頃、ディジーはバレーダンサーとして活躍していた。20歳を過ぎた二人。ディジーは花のように美しく青春を謳歌している。だが、ベンジャミンの容姿は60歳…。もう子供の頃のように、同じ価値観を共有することはできなかった。そして…。>>>つづきはDVDでどうぞ!!
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ニューオーリンズとブラッド・ピット!!。そうですよ〜、ブラピファンなら、あの大傑作『インタビューウィズバンパイア』を思い出すはず。吸血鬼は年を取らない。いつまでも美しい容姿!、変わらない若さ・魅力を保つ。だが、心はどんどん老いる。かつて若かった愛する人たち、皆老いて死んでいく。ブラピが演じたバンパイアは、不老不死を享受できない。人の血を飲まない。ネズミの血で、喉の乾きを癒すストイックな青年(?)だった
人は、歳月とともに、相応に老いる。
愛の喜び、躍動する体、青春の日は短い。
生まれたばかりの赤子であっても、
いつか、老る日を待つ…。
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この“老い”と“死”。キリスト教文化圏では、大いなる神の呪いである。禁断の知恵の実を食べた二人を、神は楽園から追放する。エバに出産の苦しみを、アダムとエバともに死という属性=宿命を与えられる。生死を繰り返し、いつしか人は地に充ち、人類の歴史は刻まれる。
その前提で本作を考える。
そ〜なんですよ〜、本作『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は極めて神の存在を意識した作品なのです。息子を失った時計職人は、神に問うたはずだ。
神は人類になにを望んでいるのか?。
神が実在するなら、その御技(みわざ)をお示しください。
神はその答えを、ベンジャミンに託した。ベンジャミンは、老いから生まれ、誕生の形で死を迎える。
子供の心を持つ老人。
青年の姿の老人。
生も死の瞬間も人は記憶を捨て去る。
神の存在を説明的に描いたシーンがある。ベンジャミンの養母クィニーが歩くことの出来ない彼をキリスト教会に連れて行くシーン。ベンジャミンは歩けるようになり、不妊症のクイニーは待望の赤ちゃんを授かる。等価交換????、祈祷した牧師は昏倒し、命を失う。
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物語の中盤、ベンジャミンは若返る体に違和感を感じる。また、バレエ・ダンサーだったディジーは衰える体に焦りを感じる。いつまでも若さを保ちたい気持ちは、多くの人の心に潜む欲望だ。だが、若さが保たれれば、変わらないの愛を望む。過度の欲求は、満たされることはない。ディジーは、普通に成長し、夢を叶え、挫折し、やっと愛する人のもとに戻る。だが、幸せの日々は短い…。
ベンジャミンとディジーの愛の生活は、文字どおりベッドだけあれば幸せなものだった。だが、歳月の中で所帯道具がだんだんと増え、ディジーは身ごもる。愛の生活が家庭に変わる瞬間、ベンジャミンは家を出る決心をする。若すぎる父親、子供の成長と自分の老いが平行する当たり前の人生が、彼には訪れない。若さ、妻、家庭、財産、娘の誕生…、すべてを手にした時、オートバイに乗り姿を消す。彼は「得ることは失うことだ」と人生の中で学んでいた。
この終盤からの映像が美しい。どんどん美しい青年に逆行するベンジャミン。CG加工の技術力の驚き!。もう実年齢として、若くないはずのブラッド・ピットが、もう喩えようなく美しい。
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ディジーを演じるケイト・ブランシェットも美しい。ケイトの演じるバレエ・ダンサーはエレガント!。彼女は言う「バレエの美しさは、体の線の美しさなのよ」。言葉どおり、踊る所作、体の線の美しさは溜息もの!!。
セピア色の画面。ノスタルジックな風景。奇跡のような喜びがあっても、救いようのない悲しみがあった。宿命という罪と罰…、聞えないような小さな囁きが全編に流れる。
老人の姿に若者の心。
死によって閉じられる人生の記憶。
だが、魂は不滅だと、雷鳴が告げていた。
最初の恋人エリザベスの人生だけが、神不在の中での人の幸福感を具現化していた。
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