活字はこう読む? 雑・誌・洪・積・世

サブ・カルチャー好きの情報スクラップ。ささらほうさらと彼岸を往復。

コミック週・月・単系

『のだめカンタービレ』レヴュー 〜索引〜

【記述時期;2010年3月1日〜2010年5月24日】

       ◆ ◆ ◆ I N D E X ◆ ◆ ◆   

         ◆ ご挨拶と総括 ◆

◆ 未定稿 ※連載中のため

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          ◆ コミック編 ◆

◆ December 28, 2008『のだめカンタービレ23巻』
◆ July 11, 2008 『のだめカンタービレ LESSON125』
◆ June 21, 2008 『のだめカンタービレ LESSON124』
◆ March 24, 2007 『のだめカンタービレ LESSON106』
◆ February 26, 2007 『のだめカンタービレ/17巻』
◆ February 13, 2007 『のだめカンタービレ LESSON103』
◆ January 25, 2007 『のだめカンタービレ』今回は休載/Kiss 1/25号
◆ November 25, 2006 祝!!連載100回/『のだめカンタービレ

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      ◆TVドラマとアニメ

◆ December 18, 2006 来週、最終回!/『のだめカンタービレ』フジTV系
◆ November 28, 2006 1/11からアニメ放映開始!/『にだめカンタービレ』


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      ◆ 映画・その他 

◆ November 26, 2006 本屋さんが後押し!『のだめ』/まんたんブロード

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※ これから追加するレビュー・感想などもあります。
  不正確な表現もあり、誤字脱字などもあります。
  気付きしだい訂正してますが、ご寛容・ご容赦ください。

          ◆ 雑誌洪積世 管理人 A・C・O ◆

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北風と太陽とライオンと…/『3月のライオン』5

3月のライオン/1

























●3月のライオン (March comes in like a lion)
●作者;羽海野 チカ
●将棋監修;先崎学八段
●掲載誌;ヤングアニマル
●出版社;白泉社
●DATA;2007年第14号から連載開始。〜連載中。


  March comes in like a lion
  and goes out like a lamb.

   様々な人間が、
   何かを取り戻していく
   優しい物語



 本当に寒い!。この寒さは小学生の頃の寒さだ。水田に水を張れば天然のスケートリンクになった。スケート靴をもって坂を上がる。手袋にマフラー、あの頃の寒さを思い出す。いつの間にか、寒い冬が遠のき、横川の天然リンクも閉鎖された。だが、今年の冬は、キリキリした空気が懐かしく清清しい!!。日中は陽だまりでほこほこし、星の夜はこたつと蜜柑と猫と過ごす。冬の夜の三種の神器に囲まれ、貸本屋の漫画を読む幸せ…。「あ〜〜〜、ありがたいことだな〜」ってことで、“ヤングアニマル”に不定期連載の異色作『3月のライオン』の感想など。

●あらすじ

 桐山 零、17歳。史上5人目の、中学生でプロ棋士(現在はC級1組、五段)になる。中学卒業を機に、進学せず自活の道を選んだが、誰とも繋がっていない欠落感から、高校に編入。住まいも川のそば、東京下町六月町に転居したばかりだった。零の家族、両親と妹は交通事故で死んでいた。棋士たちに誘われ、銀座のクラブに行った零。そこで川本ゆかりと出会う。彼女は和菓子の老舗三日月堂の三姉妹の長女、母を亡くし妹二人の面倒を見ながら、和菓子店の手伝いをしていた。銀座のクラブは叔母の店で、週2回だけ手伝っているのだ。

 ゆかりは偶然零を見かけ、自分の家に招く。三姉妹との家庭的な食卓、一人暮らしになってから食事もきちんと食べない零には、懐かしく温かいものだった。零とゆかり一家、そして自称親友の二階堂も加わり、零の新しい日常が始まった。棋士としての道、一個の人間としての零…。物語はこれからだ。>>>既刊3巻連載中。

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 『ハチミツとクローバー』で大ブームを起こした羽海野チカさんの新作。どんな経緯か?、掲載誌は、少しH(?=死語)な青年コミック誌“ヤングアニマル”!!。『エアマスター』や『デトロイトメタルシティ』など、とんでもなく素敵な作品を掲載しているが、コンビニの棚ではアダルト扱いされることもある若干可哀想なコミック雑誌なのだ。チョット強めな作風の作品が並ぶ中、羽海野さんのページだけ、違う風が吹いている。この作品は“モーニング(講談社)”や“KISS(講談社)”で連載されていたら、すぐさま映画やアニメになったと思うゾ。※白泉社さんゴメンンサイ。

3月のライオン/2
 零の住む「六月町」は、架空の場所だが、作者羽海野さんは東京都の月島などの風景を自分で写真に収め、背景画資料にしている。月島や佃島界隈に詳しい読者は、羽海野さんがどこでシャッターを押したか?、きっと判るだろう。ここら辺はどんどん高層マンションが建っているが、路地に入ると道にはみ出すほどの植木鉢や古い木造家屋が密集し、昭和どころか江戸の風情のある町なのだ。絵柄は可愛いが、読みすすんでいくとしみじみとリアルな感じが迫ってくる。

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 女性作家が青年雑誌で硬派な感じのする将棋の漫画!!!。

 勝手な想像だが“ヤングアニマル”での掲載は、作者の自由度が高いからではないだろうか?。実際、休載つづきで3年経過しているのに、既刊は3巻だけ(汗)。このスローペースは『ピアノの森』並だ(笑)。コミックのおまけエッセーで、作者羽海野さんは旅に出て、寒い吹雪の中で、この物語の詰まった箱を拾ったそうだ(心象風景ネ)。この寒い吹雪の場所というのは、平凡と非凡の比喩のように感じた。非凡であることは、天佑だが、過度の非凡、天才のそれは一種の呪いのようなものだ。

 本作の主人公零は、天才の呪いを受けた少年だ。彼は自分の才能を生かす道を究め、将棋に向かうことで実存の確証を得る。だが、勝負は勝つこと負けることの意。時には勝つことで対戦相手が傷つき、時には相手の家族が不幸になることもある。柔道のヤワラちゃんにしても、スケートのマオちゃん、ハブ名人などなど、彼らがタイトルを取り続ければ、振り返って累々と敗者がいるわけだ。負けることで、非凡から一時離脱できる。一時離脱できない緊張の中にいる者、それが本当の天才なのだろう。

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 中国の諺

 人の高みに昇るものは孤独の罰を受ける

 前も引用した。零を見ると、この孤独の罪から何とか逃げようとあがいているように思う。以前はこの諺を言葉どおり読んでいた。だが、今思うと孤独を感じるのではなく、孤独を好んでいるかのように思う。神は誰も罰しない。罰するとすれば、それは世間のねたみ、呪詛の結果、すべて人の生んだ因果応報の囚われだ。孤独は一種の逃避であり、人間関係の拒絶でもある。物語に描かれる前の零は、この孤独の罪に囲まれていた。だが、川本三姉妹と出会い、それが自分の心の囚われだとだんだんに気付く。彼には三姉妹がいて、自称親友の二階堂くんもいる。怪しげだが、師匠幸田家の人たちもある。憎しみも愛情であると思えれば、世の中は愛に満ちている。

 特別、巧い絵でもない。主人公がすさまじい天才でもない。だが、この作品には風が吹いている。その風はまだ冷たいがだんだんと羊のように柔らかい温かさに包まれるのだろう。

 今後の展開に期待!!。

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始まりの終わりは、道の途中!?/『のだめカンタービレ23巻』5

のだめ23巻

























「音楽と正面から向き合うと
 どんなふうに楽しいのか・・
  知りたくない?」

   ※22巻から シュトレーゼマン

●のだめカンタービレ 23巻
●作者;二ノ宮和子
●出版社;講談社●掲載紙;Kiss●発売日;2009/11/27
●DATA;2001年14号連載開始〜2009年20号連載終了。
    ※現在、番外“オペラ編”Kiss連載中。

 2001年14号から連載してるんですね〜〜〜。。。
 約8年…。長い歳月が経過して、すっかり○※△です(笑)。
 この物語の中の時間も7年経って。。。
 最終回には、さまざま…思いが交錯します。

●蛇足的なあらすじ(22〜23巻)

 予想外のロンドン公演。シュトレーゼマンとの競演を見事!果たした野田恵。彼女の天衣無縫・大胆・繊細な演奏は、大評判となり、世界中の音楽ファンの耳目を集めていた。YOUTUBEにアップされた画像で、恵の演奏を聞いた日本の家族や友人は、突然のデビューに大盛り上がり!!。恵不在の部屋にファックスを送りまくる。恵のデビューは、千秋真一も知るところになる。恵から喜びの報告があると思えば、いつもどおり?、一向に連絡なし。大学4年の時、実家に隠れたように行方不明???。Ruiとの競演以来、恵を放置していた千秋…、心配するが、仕事つづきで探しに行くことが出来ない。偶然で出会った千秋父。不仲な父に、思わず恵とのことを話してしまう。目の前の山盛りポテトフライとワイン、初めて親子の情を感じる二人だった。

 さて、大評判の本人、達成感後の脱力感にさいなまれ、旅の空にあった。音信不通…、それもそのはず。恵の携帯は、エリーゼ(シュトレーゼマンのマネージャー)の手にあったのだ。風呂敷を背負って、着の身着のまま。恵は列車を乗り継ぎ、エジプトを廻り帰路にあった。パリ到着まで、あと少し。計算違いで路銀?を使い果たした恵…。馬小屋に泊めてもらおうと、ホテルに交渉。馬小屋などあるはずもなく、物置に泊まる羽目に。腐ったサンドウィッチでおなかは痛いし、蚤や蚊が襲う。思うは千秋先輩のことばかり…。明日、パリのアパートに帰れば、人生ゲームの駒を進めなければならない。演奏家としての道、学生に戻る道、日本で保母さんになる道…。その選択肢に千秋との未来は消えているのか?。

 へとへとになり部屋に戻った恵…。

 床に散乱するファックスの紙。何もする気のないめぐみの耳に、騒々しい太鼓の音が響く。音楽学院作曲科の幽霊学生ヤドヴィが、打楽器曲の作曲をしていたのだ。思わず飛び込んだ恵は、いつのまにか楽しくなってくる。自分の曲をヤドヴィに聴かせる恵。「そういえば、ピアノも打楽器ですね〜」と、二人で演奏し、夢を語る。そこに同じアパルトマンの仲間が帰ってきて…。>>>つづきはコミックで!!。

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 ダイスキな作品ではあった。

 正直“日本編”が終わった時、これからどうするのか?、群像劇の側面が強くなり、肝心の恵が見えなくなった。タイトルとの遊離もあり、今後のストーリー展開が心配になった。どの音楽漫画(バレエ漫画も含め)、芸術を扱った物語にゴールはない。芸術家としての人生の多くは、不幸と紙一重…。スポンサーなくして絶対に食えない(汗)、ハイリスクな人生。その中で、何を糧・目的に、彼、彼女たちはどうに生きるか?、生きる原動力が何なのか?、愛なのか?憎しみなのか?。そこを掘り下げ、描くしかないのだ。苦境の中、努力する主人公に読者は共感し、主人公の成功を我がことのように喜ぶ。その擬似人生を味わうために、映画・コミックなど情報媒体にお金を払う。

 極論すれば『のだめカンタービレ』の成功は、読者の支持に加え、講談社の仕組んだクラシック音楽とのコラボだった。多くの読者は、講談社企画のCDを購入し、実際のオーケストラの音を聴き、のだめや千秋が演奏しているかのように、ささやかな擬似体験を楽しんだ。多くの音楽愛好家が、このコミックを絶賛したことも人気に拍車をかけた。だが、小さなコマに描かれる楽器や、鍵盤への手のポジション、すべて監修されることになる。、画面の楽譜も正確なものを求められ…、この作業は、手馴れた作家さんにさえ相当タフな作業だと思う。

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 その後のTV化、アニメ化、映画化、ますますファンの欲求・期待は高まる。人気作品こその本誌以外の仕事が増える。作家さんスタッフさんはすさまじい忙しさ!?。日々の体調管理、そして妊娠・出産、育児…。映画化の進行にリンクし、今回の最終回が仕組まれているように憶測する。作者の負担がもっと軽ければ、

 オクレール先生との国際ピアノコンクールや、
 千秋との競演のあれこれ、
 大きな音楽祭への出場、
 帰国後の野田恵としての音楽活動など、
 おまけに千秋の浮気(笑)などなど、、、

 違う物語がつむがれたはずだ。また千秋真一との関係も、予定調和的な結婚は、当たり前すぎて面白くない。「このピアノが聴けるから」と、千秋は野田恵を手元に置こうとしている。だが、彼女の本当の魂、希望、幸せは、どの方向に隠れているのか?。物語はまだまだ未完だ。

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 女の子を変態呼ばわりする先輩!?!?(笑)。

 「本当の変態を知らないのかぁ????」って、終始この“変態”ってワードは居心地悪いものだった。変態の森に住むのは、ディズニー的可愛いキャラたち。この部分だけは、大人も読むコミックとして最大の謎だ(笑)。のだめの変人ぶりとして。部屋と散らかす、没頭すると食事しない、没頭するとお風呂に入りらない、妄想的、強烈な上昇志向…などなど、描かれていた。芸術系の大学を経験した学生なら、そこらへんにごろごろいるタイプ。

 ただ、天才ランクが5つ★★★★★か?、★なしか?、ただの変人か?、天才肌の芸術家か?、周囲は見守るしかない。無用か、有用か、資本主義的な世間が分類するが、なかなか本物を見抜く達人は少ない。コミックのなかの野田恵嬢の扱いは、編集者の愛情が薄れているように感じた。主役は千秋真一、恵は随分と屈折したキャラになっていた。

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 かつて多くの楽聖は
 5線譜を通して
 神の真理に触れようとした。

 その真理に触れようとして努力続けるキャラの代表としての千秋真一
 それに対し、音楽の神に愛された天才野田恵

 彼らの対立と愛情の物語が、『のだめカンタービレ』のコンセプトだ。映画の科白でも同様のことを千秋が言っていた。映画の前編もそうだったが、ヨーロッパ編では完全の野田恵は脇役に廻ってしまった。彼女の天才性は物語から消え、『俺様ちあきの指揮修行』的な物語が続いた。その消化不良が22・23巻で、大団円へと収斂していく。性急な進行。それを良しとしない読者も多いだろうが、もう続編連載中なのだ。本巻の最終回の文字を真に受け、気に病むこともないだろう。

 終わりは始まり、始まりは終わり。
 長く心血を注ぎ、連載に尽力された、
 二ノ宮和子さんとスタッフの皆さんに!!、
 最大限の賛辞と、大きな拍手を贈りたい。 

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死せる魂への“レクイエム”か?/『クロスゲーム』5

クロスゲーム




















●クロスゲーム
●作者 あだち充
●出版社 小学館
●掲載誌 週刊少年サンデー
●DATA;2005年22・23号合併号〜連載中 既刊15巻

 夏と言えば、高校野球の季節。

 母校がひさしぶりに県代表になった。高崎祭で市民の激励を受け、応援団がエールを披露していた。伝統の大団旗が甲子園に立つ。卒業生としては嬉しいものだ。初戦は強豪“青森山田高校(!)”。悔いのない善戦を期待するのみ。本作も、甲子園を目指す高校球児たちの物語だ。

●物語の始まり

 都内近郊のどこか。スポーツ用品店とバッティングセンターはお隣同士。スポーツ用品店には、一人息子樹多村光(以下コウ)が、バッティングセンター兼喫茶店には、一葉、若葉、青葉、紅葉の四姉妹がいた。喫茶店の名前はクローバーだった。早く母を亡くした四姉妹は、力を合わせ健やかに成長していた。

 次女の若葉は、しっかり者の美少女でクラスの人気者。かたやコウは、家の手伝い優先のちゃっかり者だった。対照的な二人だが、同じ日に同じ産院で生まれた幼馴染でもあった。若葉はコウが大好き、1つ下の青葉は若葉が大好き。いつも3人でいるのだが、青葉は若葉を独占するコウを嫌っていた。そんな青葉を見て、若葉は「二人は似ている」と笑っていた。

 ある日、若葉はコウに青葉のトレーニング・メニューを毎日こなすように言う。青葉は少年野球の投手として活躍していた。公式戦には出られない女子…。だが、青葉の実力は同じ年の男子の誰にも負けなかった。若葉はある夢を見ていたのだが…。

 小5の夏。若葉はスイミング・スクールの合宿に出かける。帰って来たら、コウと夏休みに行く約束だった。何事もなく、夏休みが過ぎていく。だが、コウと若葉、青葉の夏は…。<<<続きはコミックでどうぞ!!。

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 日本人は夏の選抜高校野球=甲子園が大好き!!。『クロスゲーム』は名作『タッチ』のあだち充の最新作。アニメ版は、現在、TV放映中。甲子園がゴールなら、そろそろクライマックス近し!?。連載では、冒頭小5だったコウも、今は高3になっている。

 本作『クロスゲーム』は、少年サンデーらしい作品。普遍的な子供の時間と、日本人の多くが愛して止まない高校野球の世界が描かれる。それに加え、月島家の姉妹を巡る恋愛模様も描かれる。しっかり者の姉と、勝気な妹、可愛い末っ子、皆それぞれ魅力的だが、今風のギャルではない。運動部に所属し、真っ黒な日焼けが似合う女の子たちが、あだち充の描く理想の少女たちなのだ。この健全な世界観を、読者の少年・少女が愛することは、少し大げさでも明日の日本には、とても幸いなことだと思う。

 女の子と書いたのは、もう一人の主人公“青葉”のこと。青葉は、男子に混じって硬式野球に取り組む少女として描かれている。TVアニメ版では青葉のエピソードを膨らませ、硬式野球にチャレンジする少女たちを応援している。実際に、少ない部員で頑張る中学・高校が紹介される。この取り組みは面白いと思って見ている。

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 あだち充さんの特徴の1つだと思うが、主人公コウの設定が独自だ。ありがちなスポ根ものとは、明らかに違う。普通の街に、普通に育つ、特別ではない登場人物たち。目を引く才能も、突出した天分も、作者はコウに付加しない。それは、他のチーム・メイトも同じだ。彼を特別なものにしているのは、絶え間ない努力であり、その努力を支えるある“思い”なのだ。その思いの力をあえて“姉力”と“妹力”と書く。

 
 同じ日、同じ時間に同じ産院、隣同士の家に生まれた二人。運命的に言えば二人は同じ宿命を持つ双子の魂の片割れだ。コウの半身は若葉であり、若葉の半身はコウなのだ。だが、若葉は小5の夏から帰ってこない。作者は、あえてコウに号泣させていない。青葉も同じだ。淡々と葬儀のシーンが描かれるが、そこには感情が描かれない。この凍りついたような静寂は身内を失った者には、実にリアルな感覚だ。“死”を受け入れることの出来ないほどの悲しみ…。コウは、若葉の誕生日に毎年プレゼントを買い続ける。それを墓前に供えることではなく、自室の箱に収めていく。いつか会える…はずの若葉に渡すためだ。

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 『クロスゲーム』は、明るいスポーツ漫画に見えて、基音(ベース)には、レクイエムが流れている。小5の夏、若葉を失ったコウと青葉、二人は若葉の見た甲子園の夢を実現させるために、動かされている。若葉の“霊力”は、自分にそっくりの少女“アカネ”を、コウの家の隣に転居させる。この“アカネ”にも死の影が付きまとっている。

 コミックを読みながら、幾度も本気で泣いてしまった。身近な死を体験していなかった昔、私は“タッチ”の悲しみが実感できなかった。家族の死を経験した今、あだち充の描く暖かい死が始めて判ったような気がする。

 『クロスゲーム』の世界観は、もうどこにもないファンタジーなのかもしれない。
  ※のちほど加筆修正します。

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人は何故踊るのか?/『昴-スバル-』 1〜11巻5

昴11巻
























●昴 すばる(全11巻)●
●作者;曽田正人
●掲載誌;ビッグコミックスピリッツ
●DATA;2000年2・3合併号〜2002年49号連載
※2007年36・37合併号から『MOON 昴 ソリチュード スタンディング』連載再開。

 本年3月、黒木メイサさん主演で映画化された作品。読み逃していたので、珈琲館に11巻持ち込む。現在の泣きたい気分に、微妙にマッチ!?。コミックの山を置き、2時間半、鼻をかみつつ泣いている客(?)、相当に迷惑だな…。

●導入部のあらすじ

 宮本すばるは小学3年生。学校では目立たない少女だった。すばるには双子の弟和馬がいた。和馬は、2年前に悪性の脳腫瘍を発症。回復の見込みはなく、今はベッドで寝たきりだった。すばるは毎日和馬を見舞い、学校の出来事を再現してみせる。ある晩、すばるは猫のしぐさを踊ってみせる。それまでまったく反応のなかった和馬がすばるを見てにっこり笑った。

 すばるのクラスメートにバレエスクールの一人娘真奈がいた。真奈は元気な頃の和馬に、淡い恋心を持っていた。和馬の誕生日に見舞いに訪れた真奈は、和馬の重篤な様子に驚く。すばるが和馬に踊って見せることを知った真奈。すばるを母のバレエ教室に誘う。学校では目立たないすばるだったが、踊ることだけに異様な才能を見せる。

 踊りの楽しさを知ったすばるは、どんどん踊ることにのめりこんでいく。和馬に見せたいとジゼルのアルデヒドを踊るすばる。真奈と一緒に練習している間に、和馬は息を引き取ってしまう。

 和馬の葬式の日。泣き続けるすばるに、父は和馬の最後の言葉を聞かせる。「すばるちゃん、ごめんね」の言葉は、すばるの心に一層の罪悪感を抱かせる。雨の街に飛び出し板すばるは、黒猫に導かれ「パレ・ガルニエ」という名の場末のキャバレーに飛び込む。すばるにとっての運命の出会いとなるのだ。そこのオーナーはかつて…。>>>つづきはコミックでどうぞ!!

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 バレエ漫画と言えば、少女コミックの王道(!)。山岸涼子さんや槙村さとるさんが東西の横綱、大関は萩尾望都さま!?。そんな芸達者な漫画家さんが確固たるジャンルを築いていた。その一角に、まったく違う汗にまみれたヒロインが体当たりしている。こんな(!)青年向けコミック雑誌に、バレエ漫画の傑作が隠れていたのは!!!。

 1巻の出だしは暗くて、あまり好きな導入ではない。病魔に冒された少年の死は、エピソードとして重い。絵も綺麗とは言えず、バレエ漫画としての魅力に欠けるように思ったりした。しかし、真奈の母経営のバレエ教室に通うエピソードから、作者の描きたいものが輪郭を現していく。

 非日常でしか幸福感を感じることの出来ない人たち。
 神から選ばれたような…才能の不幸。

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 突出した才能。それは神からのギフトのように思える。だが、反面、呪いのように運命を狂わせて行く。もしすばるが普通の少女だったら、プロのバレエ・ダンサーと言う選択肢はない。和馬のような病魔と闘う子供を助ける看護士さんになるかもしれない。また、結婚し、和馬の分も幸せな生涯を送るかもしれない。すばるの目は、和馬を失った日から違う彼岸を見ている。真の才能は諸刃の剣!?、創造はつねに破壊を伴っているものだ。

 踊りに魅入られたすばるは高校に進学することもなく、家を飛び出し、日本からも飛び出す。出会いと別れを繰り返しながら、すばるは自分の居場所が何処にもないことを知る。すばるの踊りに接したしたたちもまた、自らの運命の破綻を知る。神の如きものは、人が知恵を持ったことを呪いつつ、また深く愛しているのだ。

 すばるがアメリカで所属した零細バレエ団は、刑務所の慰問をしていく。すばるの踊りは、まさしく運命に呪われた囚人たちの心を打ち砕く。暴動さえ起こしかねない彼らの感動は、生きることの悲しき、自由を失ったものの号泣に他ならない。

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 真の芸術とは、神なるものと合一することだ。神とは死と生を司る冷徹な原理。踊るという原初的な行為に宿る神は、まさしくそんな太古からの神なのだろう。すばるの物語は、すばるの名そのままに星辰の世界に息づく神々の気配が漂う。人は何故踊るのか?、芸術の真髄と秘密が描かれている。その秘密を気付かず描いている作者曽田正人さんも、すばる同様、神のギフトと呪いを知る人なのだろう。

 続編『MOON』も購入。
 すっかり綺麗(絵!!)になったすばるの活躍を愉しみにしている。

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“市松人形”コミックの最高峰!! /『草迷宮』5

草迷宮




●草迷宮・草空間●
●著者:内田善美
●発行所:集英社
●1985年3月発行


 このブック・レビューは2006/10/23にアップしたもの。早いもので2年半経過している。「あれ?たった2年半」、私の中では10年くらい経った気分だ。新しい読者さんも増えた(?)ので、『たくさんの不思議』の関連記事として、文章を一部修正追加して再アップ。この『草迷宮』は絶版中。早く復刻していただきたいものです。

●あらすじ

 主人公草(そう)は、内向的な大学生。ある日、ごみ捨て場に捨ててあった人形を拾う。人形はネコと名乗り、草と人形の奇妙な生活が始まる。

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 初出は『草迷宮』は1981年のぶ〜け8月号/『草空間』は1984年のぶ〜けせれくしょん1月20日号に掲載されたもの。

 自分で購入していた少女コミックで一番長く読んでいたのは『ブ〜ケ』かもしれない。『ぶ〜け』には大島弓子さんが読みきりを描かれていたし、この内田さんも本当に寡作ながら掲載。また松苗あけみさんの『純情クレージーフルーツ』も面白かった。吉野朔実さんを最初に読んだのも『ぶ〜け』だったと思う。たいていの漫画雑誌は捨ててしまうのだが、『ぶ〜け』だけは長くは手元に置いてあった。『ぶ〜けせれくしょん』はまだ物置きにあると思う。

 『草迷宮』は記載の初出年で判るようにもう22年も前の作品となる。だが、古びた雰囲気はどこにもない。変なたとえだが、井上陽水の『氷の世界』を聞くと、いつも新鮮な印象があるような感じかもしれない。この頃の少女漫画界が、花の28年組(大島弓子さんや萩尾望都さん)が大活躍した時代だった。彼女たちによって、芸術性や文学性、哲学性といった、本来文学や芸術作品の特権のようだった高貴な概念が、少女コミックの世界で開花していた。日本の文化史の中で、稀有で幸せな時期だったとも言える。時代の空気とともに、才能と編集者と読者、この3つが揃って初めて生まれる贅沢だ。

 この名作『草迷宮・草空間』は絶版している。時々ヤフオクに出品されで、¥2000〜¥4000程度で落札されている。復刊を求める声も多い。早く復刊されて、この宝石のような作品をたくさんの読者に読んでもらいたい。、ついでに贅沢と言えば、愛蔵版原稿実寸サイズ&カラー原稿はカラーが良いナ〜(持ってるけど買います)。


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 記事を書く前(2006/10当時)に、『草迷宮・草空間』のレビューを検索した。その中に、表紙の人形と「黒バックは怖い感じなので、普通なら絶対手にとらない」といったレビューがあった。私としたら、???な感覚だが、普通の女の子だったら、そうなのかもしれない。

 “ゴミ捨て場に捨ててある人形、あなたなら拾いますか?”

 一般人は99%人は拾わないかもしれない(?)。

 都市伝説で『人形のりりーちゃん』がある。「わたし、リリーよ、今、扉の前にいるの」捨てた人形が持ち主を訪ねる心温まるお話だ(嘘)。伝説(?)の怖い漫画『わたしの人形は良い人形/山岸涼子著』なんて短編もある。この『わたしの人形は良い人形』の原案は、これまた伝説(!)の怖い学術書『現代民話考/松谷みよ子』。この『現代民話考』はちくまから文庫になって出ているので、怖い話好きの人にお薦め(笑)。大部の全集だが、中の二冊ほどが民間から採集した怪談になっている。

■■■

 ついでの脱線だが、市松人形コレクターさんのサイトにたくさんの可愛い人形の画像が掲載されている。その中に昭和初期に数年だけ製造された“人形液”のシールが貼ってある人形があった。よく手入れされた人形で、新しく誂えた着物を着ていた。「可愛いな〜。。。」と眺めていたら、持ち主さんのコメントは「ゴミ捨て場に捨ててありました」だった。『草迷宮』みたいだと、羨望のため息…。

 再度、脱線の脱線。以前、仕事で知り合った女友達がトランクを送ってきた。私が海外旅行用のトランクが欲しいと言っていたので、送ってくれたのだと思う。そのトランクは彼女がゴミ捨て場で拾ったそうで、鍵が開かないので私に譲る(?)とのこと。もらったは良いが、私だって、開かない鍵は開かない(!)。それに妙に重いので、中に何か入っている雰囲気も不気味で、結局女友達には悪いが、数日後ゴミ置き場に逆戻りした(笑)。

 ゴミ置き場のエピソードは都会に限るようで、可愛い市松さんなんて間違ってもない。ゴミ置き場は生ゴミ&燃えるゴミ以外は置いてない(田舎です=爆)。

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 時々、ヤフオクの市松人形オークションを覗いている。先月、人形オークションに変なものが混ざっていた。

 “人形を処分する前に。霊障相談は○×△☆(※ちょっと違うかな)”

 霊能者の人が出品したもので、なんだか相談料は数万だった。古い人形に霊が宿っているかのように思わせる内容。二週間ほどで姿を消したので、PRの類いだったのだろう(あるいはクレームがあったのかも…)。

 出品された古い人形を見ると、「こんな人形、誰が買うのだろう???」と思うようなものがある。安いので落札すると、解体済状態なものが届くこともある。こんなのは別として、怖い感じの人形でも、手足のつくりが良いとけっこう高価で落札される。どんなに、オンボロな人形でも、落札した人にとって、新しい着物を着せ、髪を整えれば、やはり可愛いお人形なのだ。人形好きは、「人形に心があれば…」と思い、人形が怖い人は「霊が宿っている…」と思う。人の心は面白い。


 “ゴミ捨て場に捨ててある人形、あなたなら拾いますか?”

 骨董品屋さんなら、絶対拾うと思う。私は目が合ったら、勿論拾います(爆)。
 2006/10/23

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謎!?“ローラ・チャン=空美”/テレプシコーラ舞姫 第2部2巻5

テレプシコーラ2/2





●テレプシコーラ舞姫 第2部2巻●
●著者;山岸涼子
●出版社;メディアファクトリー
●発売日: 2009/3/23













 高崎市に新しく出来たカルチャー・スクールには、バレエの教室が複数ある。都内から先生が来ており、本格的な雰囲気が漂っている。レッスン室は建物の通路に面しており、ブラインドの隙間から生徒さんが見える。ナァ〜ンと!!、成人クラスは綺麗なお姉さんばかり。子供クラスは、練習を見守る父兄!が熱い。&チビッコたちのお揃いのピンクのレオタードが可愛い。チラッと横目で見ながら、『テレプシコーラ』の世界だな〜、と思ったりする。

●第2部のおさらい

 六花は16歳、志し半ばで死んだ姉の夢を受け継いでいた。

 六花は、すでにバレエコンクールで奨学生の権利を得ていた。それに加え、難関のローザンヌ国際バレエコンクールのビデオ審査も通過。もしローザンヌに出場すれば、すでに得た奨学生権利を放棄することになる。辞退を勧める周囲の思惑とは別に、六花はローザンヌを目指す。

 雪による航空機の出発遅延、茜たちの荷物の未着など、ローザンヌは到着前から前途多難…。中でも、同行の茜は出発時から風邪にかかっていた。茜たちと別便になり、1人スイスに到着した六花、寒さと時差に体調は万全ではなかった。いよいよ、ローザンヌ国際バレエコンクールが開始される。日本のステージと違い、大きく客席方向に傾斜した舞台。言葉の壁、始めてのことばかりに戸惑う六花…。気持ちが萎えた時、彼女を励ますのは心の中の千花の声だった。

 本選を前に、クラシックやモダン、振り付けなど、さまざまなレクチャーが六花らに用意されていた。世界各国から集まった才能豊かな出場者たち。なかでも中国系アメリカ人のローラ・チャンは、クールな美貌に加え、ひときわ光ったダンサーだった。股関節の欠点もあり、テクニックに劣等感を感じることも多い六花は、ローラの踊りに羨望とともに、一種の既視感を感じる。六花とローラ、茜、多くの才能がぶつかっていく。

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 おなじみ本の月刊誌『ダ・ヴィンチ』に連載中の『テレプシコーラ舞姫』。衝撃(!)の第1部から、物語は新展開の第2部へ。コミック単行本は、本巻で通巻12巻目になる。

 第1部では、都内近郊のバレエ教室が舞台。姉妹の成長とともに、進学問題やイジメ、バレエのこと以外にさまざまな事件が描かれた。だが、第2部はいささか違った雰囲気で進んでいる。平たく書くと「六花ちゃんと学ぶローザンヌ国際バレエコンクール」って感じになる。

 今回の第2部を描くに当り、山岸先生は現地で綿密に取材。コマの書き込み補足によると、多くの関係者から取材をしている。だから、ローザンヌ国際バレエコンクールの細部は勿論のこと、市内にある美味しいチョコレート屋さんのこと、参加者で出されるランチの具体的な内容、風邪をひいた時に飲むプロポリスのことなどなど、コミック・エッセー風なトピックも多い。一見、お役立ち情報風なのだが、誰の役立つかは、微妙にバレエ愛好者&関係者だけ(笑)。本当に、一部限定な情報で可笑しい。

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 第2部で気になるのは“ローラ・チャン”の存在。

 私は彼女の登場シーンから、勝手に“空美ちゃん”だと思っている。空美ちゃんは、第1部中盤で突然姿を消したきり、まったくストーリーに絡んでこなかった。かつてのスター・ダンサーであり、心身を病んだ叔母から、空美は英才教育を受けた少女。家庭の複雑な状況、貧困の極地にあって、考えられないような仕事もさせられていた。

 物語の初期から登場していたのに、存在を忘れたかのように数年経過。それに「いくらなんでも…」的な雑な顔だち(茜ちゃんもそうだけど=汗)の描写。それが凄みのある美貌に成長していた。あの雑な三白眼&ベース顔も、すべて第2部の伏線だったのか?!。本当に山岸先生は怖い(笑)。

 ファンは、山岸作品を読むこと自体楽しみ。『テレプシコーラ』依存症!?なっている。こういうノリってやっぱり大御所の風格なんだな〜!!!、とつくづく思う。同じ大御所の美内先生の『ガラスの仮面』で『紅天女』の審査が何十年続いていてもファンは怒らないのと同じだ(汗&爆)。

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 千花、六花姉妹は勿論、ひとみちゃんや茜ちゃん、バレエ学校の先生たちも含め、本作『テレプシコーラ舞姫』が多くの才能を描く群像劇だ。狂言回し役の六花ちゃんは傍観者であり、作者の分身のような存在。振り付けの才能が今は強調されているが、これも先生独特の伏線の反転?。彼女の表現力の才能は未知数であり、第2部の楽しみになっている。

 5月号では、六花ちゃんの風邪状態が気になりつつ“次号につづく”。世の中がどんなに不況でも、物語はバレエの時間だけを刻んで行く。これって六花ちゃんのパパが地方公務員ってこともあるのかな〜、、、と思う私だった。

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