ブレイブ/1














●ブレイブストーリー●
●原作:宮部みゆき
●監督:千明孝一
●声の出演;松たか子/大泉洋/常盤貴子/ウェンツ瑛士/今井美樹
●日本映画/112分

世の中というのは変えられるものです。
苦しんでいる人を助けたり、
間違っているところを正すためにも
変えていかなくてならないのですが、
じゃあ世の中だけ変えればいいのか?という疑問も、
同時に突きつけられると思うのです。(後略)
                宮部みゆき

ブレイブ/2

土曜の朝、酷暑になりそうなピーカンな青空。狭いボーダーガーデン(※実際は植木鉢が並んでいるだけ)に水を捲きつつ、「朝9時までにDVDを返しに市内の書店に行かねばならない」と思い出した。どうせ市内まで行くなら、少し足を伸ばし、涼しい映画館に行くことにした。そんなこんなで9時20分上映の『ブレイブストーリー』を109シネマズで鑑賞。映画館は良い子のみんなとママで一杯!『ポケモン』も上映中だった。世の中、夏休みですね〜。。。

●あらすじ

ワタルは普通の小学5年生。通学路に建つ廃虚のビルに「幽霊が出る」らしい。噂に聞いた親友のカッちゃんに誘われ、ワタルは廃虚ビルに探検に行く。ワタルはそこで、不思議な少年と虚空にそびえる階段を目撃する。翌日、ワタルは隣のクラスの転校生ミツルが、廃虚のビルで出逢った少年だと知る。そこに6年生の悪童3人組が現れ、ミツルに殴りかかろうとする。廃虚ビルは彼等の縄張りだと言うのだ。担任の先生が来て、難を逃れたミツルだった。その日の午後、ワタルは、早い時間に帰宅した父に「一緒に夕食を食べよう」と言う。しかし父の口から出た言葉は「他の女の人と暮らすことにした」と言う驚くべきものだった。家の中では、離婚届けを見つめる毋がいた。

ブレイブ3
ワタルは父を追うのだが、父の姿はなかった。あてもなく歩くワタルの足は、自然に廃虚ビルに向かっていた。そこではミツルが、悪童3人組にリンチされていたのだった。ミツルの姿にワタルは、「ひどいよ〜」と声を出してしまう。ワタルの助けで、ミツルは口を塞がれていたガムテープを剥がされると、魔物を召還する呪文を唱えた。無気味な魔物によって、悪童達を目覚めぬ眠りに陥れるのだった。その晩、ワタルはミツルからヴィジョン=幻界と呼ばれる世界のこと、運命を変える願いのことを聞く。

遅い帰宅をしたワタルが目にしたのは、離婚のショックで倒れてしまった母の姿だった。救急病院に搬送される母に付き添っていたワタルは、ミツルの言葉「運命を変えることのできる世界」を思い出す。母の悲しまない温かい家庭、ワタルは運命を変えるべく、廃虚のビルの不思議な扉へと向かうのだった。

つづきは原作本、または映画でどうぞ!

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『ブレイブストーリー』はフジTVが制作期間4年を費やし、700名のスタッフによって作られた大作アニメだ。フジTV系の深夜アニメは、他局の深夜枠同様に質の高いものが多い。この作品は、デジタルアニメのGONZOの技術の粋を集めたもの。従来のセル画とCGの融合は実に自然で、空間の広がりのある、完成度の高いものだった。『ブレイブストーリー』は、背景や世界観、隅々まで丁寧に、念入りに作られた良心的なアニメだと言うことは間違いない。

ダンジョンからの脱出、魅惑のサーカス、龍の背に乗り空を飛ぶ、迫力のカタストロフィーetc.と盛り沢山!ミツルの悲しい運命に、涙腺がゆるくなるシーンもある。テンポ良く、とても面白かったのだが、やはり子供向きアニメのように思った(あくまで個人的な感想です)。ヴィジョン=幻界は招かれた旅人によって姿を変えると言う。だからこの映画のヴィジョンは小学5年生のワタルの作り出した想念界なのかもしれない。最初の街の様子は『チキンリトル』のようでもあり、『十二国記』のようでもあり、『奇跡の輝き/1998年作品ロビン・ウィリアムス主演』のようでもある。

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宮部みゆきさんの特徴の1つに、『調べ学習』的な作風がある。綿密に下調べして、物語の登場人物の人柄、街の様子、あらゆることが事細かく描写される。この『ブレイブストーリー』のディテール、設定は人気RPGの本歌取りになっている。宮部みゆきさんが一番参考にされたのは、故ミヒャエル・エンデ氏の『果てしない物語』かもしれない。大きな賢い亀モーラのいる沼は悲しみの沼だった。なぞなぞに答えられないと抜けることの出来ない門、『ブレイブストーリー』にも同じような場面が登場する。

ブレイブ/4

また、勇者や魔道士、宝玉=オーブを集めて、願いを1つだけ叶えてもらう。「ほらほら『ドラゴンボール』や『ドラゴンクェスト』じゃない(笑)」と笑ってしまうのは簡単だ。しかし、こういった部分はあくまで和歌の世界での「本歌取り」として見るべきである。冒頭に転記した公式HPの最初のある宮部みゆきさん本人の文章は、この物語で何を書きたかったのか、御本人から説明されている。

『じゃあ世の中だけ変えればいいのか?』

これは現在、同時に上映中の『デス・ノート』のテーマでもあると思う。また今月末公開される『ゲド戦記』のテーマでもあるのだろう。

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ワタルがヴィジョンに旅立つ理由の1つは、両親の離婚問題だ。ミツルはもっと深刻な願いを心に秘めている。家族は男女の慈しみあいから派生した運命共同体である。男女の性愛だけでは家族は維持できない。運命の恋人や運命の恋なんて、ロマンチックな時間はあくびをしている間に過ぎ去ってしまう。

ワタルの望み「父と母と自分の幸せな家庭」、もし父が戻ったら、父の愛人は何処に消えてしまうのだろう…、何故父は母やワタルを捨てて、その女性のところに走ったのだろう…、都合の良い運命なんて何処にもないことを、ワタルは冒険の間に学ぶ。この『ブレイブストーリー』は、極めて道徳的な、人生観や夫婦観、家族観を考えるテキストになっているのだ。

『人生とは、苦難の90%と喜びの10%によって成り立っている』

「そんな人生は嫌だ!運命の女神さまに喜び100%に変えてもらうんだ」と、大声で叫びたい。でも、喜びだけの人生なんてあるのだろうか?

物語の最後は、希望と喜びに溢れていた。そこが嬉しいようであり、どこかほろ苦い。

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