●ファン・ジニ●
●原作;ホン・ソクチュン(朝日新聞出版)
●監督;チャン・ユニョン
●出演;ソン・ヘギョ/ユ・ジテ/リュ・スンリョン/
ユン・ヨジョン/オ・テギョン/チョン・ユミ/チョ・スンヨン 他
●DATA;2007/韓国/141分
TV版の『ファン・ジニ』はすご〜くハマって見ていた。感想はのちほどアップの予定。今日は映画の方の『ファン・ジニ』の感想をば…。
●あらすじ
孝行門と呼ばれる両班黄家。名門黄家には一人娘チニがいた。そのチニの傍らには、母に捨てられた孤児ノミが影のように寄り添っていた。まだチニが幼い頃、チニは「提灯祭が見たい」とノミにせがむ。両班の娘は外出は禁じられていたのだ。ノミは、ばあやに内緒でチニと提灯祭に出かける。賑やかな庶民の祭り、夢のように楽しい時間を過ごしたチニ。だが、家にもどったノミは主人の黄に激しく叱責され鞭で打たれる。チニは「ノミは悪くない」と泣いて懇願する。それから間もなくしてノミは黄家を出ていく。
十数年の時が経ち、黄家の裏山にノミの姿があった。主人の死んだ後、黄家は以前のような賑わいを失っていた。チニは美しく聡明な娘に成長していた。もうすぐ漢城の両班の家に嫁ぐことになっていた。街で黄家の没落を聞いたノミは、黄家に戻り執事として働くことにする。チニのばあや、使用人のイグミはノミの帰還を喜ぶが、チニの心は複雑だった。執事となったノミはまた裏山の高台から黄家を見下ろしていると、「両班の屋敷を何故見ている」と話しかけられる。その女は旅の技生で、かつては黄色の使用人だった。ノミはその女から、恐ろしい秘密を打ち明けられる。それは…。>>>つづきはDVDでどうぞ!!
*******************************
NHKで放映されていた『ファン・ジニ』と同名だが、原作違い(TV版の原作はキム・タクファン)の映画化。以前も書いたが、『ファン・ジニ』は、16世紀に実在した伝説的な名妓を題材とした物語。ウィキペディアに【朝鮮の詩人 黄真伊=明月;生没年は約1506年 - 1544年頃】とあるので、中宗時代に38歳で死んだことになる。
断片的な詩=時調とコムンゴ(琴)の編曲楽譜が残っているだけ、その残っている詩の素晴らしさや、編曲の巧さから、彼女が卓越した才能の持ち主だったと推測されているそうだ。残った詩の断片は失った恋人を歌ったもので、なんとも小説家や芸術家のインスピレーションを刺激する存在!だ。
TV版と映画版、二人の作家は同じ人物を描きながら、まったく違う視点で彼女を分析している。TV版は、チニとウノの悲恋、チニと松都ペンム行首との確執、プヨンとの芸競い、キム・ジョンハンとの別れなどなど、沢山のエピソードがチニの生涯を彩るが、チニはしっかり青春しつつ成長している。だが、映画版はいささか趣きが違う。映画版は、身分制度の中で、世を恨む孤高な娘が本当の愛を知り、そして愛を失う物語だ。
■■■
TV版では明月の護衛を務めていた無名=ムミョン。映画版ではノミ=無知として登場する。チニを愛している余りに、チニを不幸のどん底に落とす男!!。彼が犯した罪の償いは余りに悲しい。愛するがゆえに犯す罪…、そのノミを愛するチニは、身分制度そのものに対し、反骨を貫く。TV版にしろ、映画版にしろ『ファン・ジニ』は、身分制度に馴染まない今の日本人には、なんとも納得いかない不条理が多い。両班のお嬢さんだったチニが、なんで家を出て選ぶ職業が妓生なのか?。それしか生きる道はないのか?。????だったりする。加えて、TV版・映画版とも共通しているのだが、チニの両班に対する恨みは本当に根強く、強烈!だ。
その物語を鑑賞するための蛇足になるが、長く同一王朝が続いたため、朝鮮半島には厳格な身分制度が産まれた。良民(両班>中民>常民)と賤民(奴婢>白丁)と区別され、技生は下層階級の奴婢に分類されていた。良民と奴婢の間では正式な婚姻など成立せず、もし賤民階級の男が良民の娘と恋仲になれば、死罪にもなる大罪となる。
その中で、妓生は低い身分でありながら、王族や両班の相手を務める特殊な存在。特に官に属する一牌妓生は、高い教養と技芸を求められ、豪奢な衣装の着用も許される特権階級。没落した両班の娘なども多かったそうで、気位も高いのは当たり前!!。元お嬢様が売春しなくちゃならない!?!?!?、ハチャメチャ!!に矛盾した存在なのだ。この前提で『ファン・ジニ』を観ると、彼女の意地悪ブリ(笑)が、少しは納得いく。
■■■
TV版は赤やピンクを多様し、豪華な衣装や丁度が評判だった。だが、映画版は陰影の多い画面づくりで、全体に押さえた色調になっている。映画のチニは化粧も地味で、緑や黒を基調とした衣装を着ていた。華やかな踊りのシーンもなかった。
画面に漂う死の影…、顔も知らずに死んだ母、チニに恋いこがれて死んだ若者。二つの葬列が物語の重要なシーンになっている。どんなに評判の名技になっても、彼女の顔は暗く、物思いに沈んでいる。チニの心は半分死んでいる。存在そのものが不幸だと自ら烙印を押した人生はどれほど辛いものだろうか…。身分制度の愚かさをしみじみと感じる。
ラストシーンは北朝鮮でロケしたそうだ。雄大な山河が美しく、なんとも儚く美しいシーンだった。
◆ブログランキング参加中。乞う!クリック!